シュール

昼休みにみんなで中華料理に入り、味噌ラーメンと大盛りライスを頼んで、なんとなく壁にかけられたメニューを眺めていたら、同僚たちがくすくすと笑っていることに気づいた。

僕はなんとなく自分のことが笑われている気がして、シャツが汚れていないかこっそりと確認し、さりげなく手のひらで顔を拭った。

どうやら同僚たちが見ているのは、僕の後側の席のようだった。
なるべく自然な感じで体をよじり、後ろのテーブルの様子を確認した。

後ろの席には、おじいさんとおばあさんの二人連れが座っていた。
ただ、おばあさんは小さな子供を抱えていたが、よく見るとその子供は人形だった。

おばあさんは人形の口に橋で野菜炒めを運んで、何か呟きながら、なんとか子供に食べさせようとしている。おじいさんは何食わぬ顔で自分のラーメンをすすっていた。

僕は「微笑む」と「くすっと笑う」の中間くらいの笑顔をつくって前を向き直した。

人形は柔らかそうな赤ちゃん用の服を着ていて、遠くから見ると本物の赤ちゃんのようだった。でもぱっちりした黒目は決して閉じることがなく、野菜炒めが顔や服を汚しても、人形はなんの抗議もしめさなかった。
人形に何とか野菜炒めを食べさせようとする、おばあさんの熱心さがシュールだった。

おじいさんも大変だな、と思った。でももしかしたら、それはとても自然なことで、それほど大変じゃないのかもしれない。と思い直した。僕もおじいさんくらい年をとったら、何かわかるのかもしれない。

playback  いちょう、ひらり。 2000.04.02

事故

 

バイトの先輩がビルの3階から落ちました。 落ちる途中、ビニールの屋根で跳ね返ったらしく、頭から落ちたそうなのだけれど、死にはしませんでした。 でも後頭部から額にかけて頭蓋骨にひびが入っていて、絶対安静面会謝絶だそうです。

死んでしまったのか生きているかの連絡が入るまで、みんな事務所で待機していたんだけど、漫画を読んだりご飯を食べたりしながらも、それぞれに心配そうな様子でした。 一見心配してないような行動をとる人もいましたが。

死んだら彼は好きなギターも弾けません。 それは悔しいことです。 僕の心に込み上げてくるものは、その悔しさでした。 もし僕がギターを弾かなかったら、彼の違った悔しさを想像していたのでしょう。 つまり、そういうことです。

playback  いちょう、ひらり。 2000.04.04