昼休みにみんなで中華料理に入り、味噌ラーメンと大盛りライスを頼んで、なんとなく壁にかけられたメニューを眺めていたら、同僚たちがくすくすと笑っていることに気づいた。
僕はなんとなく自分のことが笑われている気がして、シャツが汚れていないかこっそりと確認し、さりげなく手のひらで顔を拭った。
どうやら同僚たちが見ているのは、僕の後側の席のようだった。
なるべく自然な感じで体をよじり、後ろのテーブルの様子を確認した。
後ろの席には、おじいさんとおばあさんの二人連れが座っていた。
ただ、おばあさんは小さな子供を抱えていたが、よく見るとその子供は人形だった。
おばあさんは人形の口に橋で野菜炒めを運んで、何か呟きながら、なんとか子供に食べさせようとしている。おじいさんは何食わぬ顔で自分のラーメンをすすっていた。
僕は「微笑む」と「くすっと笑う」の中間くらいの笑顔をつくって前を向き直した。
人形は柔らかそうな赤ちゃん用の服を着ていて、遠くから見ると本物の赤ちゃんのようだった。でもぱっちりした黒目は決して閉じることがなく、野菜炒めが顔や服を汚しても、人形はなんの抗議もしめさなかった。
人形に何とか野菜炒めを食べさせようとする、おばあさんの熱心さがシュールだった。
おじいさんも大変だな、と思った。でももしかしたら、それはとても自然なことで、それほど大変じゃないのかもしれない。と思い直した。僕もおじいさんくらい年をとったら、何かわかるのかもしれない。
playback いちょう、ひらり。 2000.04.02