得意技

人はそれぞれ、なにかしら特技を持っている。 さくらんぼの枝を口の中で結べたり、けん玉が上手だったり、耳をピクピク動かせたり。 役に立つものもあれば人生に2度くらいしか役に立たないものもある。 自分では特技だと気付かないこともあったりする。
そんなわけで僕にも特技がある。特技と言ってもよいのではないだろうか。 それは、「ラーメン屋の主人と仲がよくなりやすい」という、きわめて限定的であまり役に立たない特技だ。 なにがそうさせるのだろうか? ラーメン屋の主人は、自分と同じ雰囲気を僕に感じるのだろうか。

それで、今日も病院の帰りにラーメン屋に寄った。 客と主人と言う一線を超えない微妙な距離を保った会話の中で、吸っている煙草の話になった。 その会話の中で、僕は生まれて初めて自分の父親のことを「オヤジ」と呼んだ。 「煙草や酒はオヤジが吸っていた銘柄に落ち着くんですよね」という風に。 脱サラをして美味しいラーメンを作り、顔が割れるのが嫌なのでTVの取材やインタビューは受けないという、いささか頑固なラーメン屋の主人に対して、自分の父親を「おとうさん」と呼ぶには何か抵抗があったのだ。 自分のことを「ぼく」から「オレ」と呼ぶことが多くなったように、僕はお父さんのことを「オヤジ」と呼ぶようになったのだなぁ。と、麺をすすりながら思った。 ガラス屋としてある程度の金を自分で稼ぐようになって、目つき顔つきまで変わってしまった僕は、代わりに何かを失くしているような気がして、やっぱりどこか寂しい気がしたりする。

playback  いちょう、ひらり。 2000.04.01

卒業パーティ

 卒業式の日でした。 僕はもちろん卒業しないので、普通に仕事をしていたのだけど、2次会のパーティーには行ってきました。 

 何故か先生達もたくさんいて、普段は見せない笑顔をたくさん見せていたので不気味でした。 ふとした瞬間、友達と僕とフランス人の先生の3人になってしまって、とても居心地が悪かったです。 「ううむ。意思疎通できないんだよなぁ」と独り言を言ったら、フランス人の先生が「ヨロシクオネガイシマス」と日本語で攻撃してきました。 僕は「メルシ」と言ってみました。 外人の先生が、ただの外人になるのを見てしまうと、なんだか、やるせないです。 やるせない?

 3次会はディスコに行ってきました。 ディスコとはクラブのことです。 友人達がスーツを着て来るのに対抗して、ガラス屋のツナギを着ていたのだけれど、入り口で「タオルは取ってください」と言われました。 ツナギはOKだけどタオルを頭にかぶるのは駄目なんですね。 彼は僕の格好を見て悔しかったのでしょうか。

 始めロックがかかっていたので、ぼ〜っと座っていたら、白人の短髪金髪少年が500円が消える手品を見せてくれました。 はじめは何をしているのか分からなかったけど、どうやら手品をしてるんだなと思って驚いた顔をすると、満足そうな顔をして仕掛けを教えてくれました。 彼は他の人にも見せて廻っていました。 友人いわく、彼はものすごく頭がいいか、ものすごく頭が悪いかのどちらかなのでしょう。

 明け方、男女7人で吉野家で牛鮭定食を食べました。 「あすなろ白書」みたいな一晩でした。

playback  いちょう、ひらり。 2000.03.24