僕たちは、あまりぱっとしない近所の喫茶店の窓際の席に座っていた。
この喫茶店、名前を「喫茶ポコ」という。 悲しげである。 そしてぱっとしないにはそれなりの理由がある。 まず、店内が薄暗くて、カウンターの上や壁のポスターなど、雑然として落ち着かない。 そして「喫茶」と銘打っているにもかかわらず、飲み物の種類が少ない。ブレンドコーヒーと紅茶とジュースが5種類ほど。 ケーキやサンドイッチやトーストなどの軽食がない。 そのかわりに何故か豚カツ定食やハンバーグがメニューにある。隣には繁盛している定食屋があるにもかかわらず。
こういう店はたいてい近所に住む常連客の溜まり場になっているのだが、不思議なことにそのような客もあまり見かけない。 僕が店に入るとたいていぼ〜っと時間をつぶしているサラリーマンが一人くらいは居るのだが、僕がコーヒーを飲んでいる間に他のお客さんが来るのを見たことがない。そんな喫茶店である。 普通の人には見えないのかもしれない。 見えたとしても、まず意識は向かない。
僕はアイスコーヒーやメニューの張られた壁を眺めていた。 時間はあまり無かった。 これから夜勤かと思うと気が重かった。 そして目の前に座っている女の子に視線を移した。
「やっと視線合わせてくれたね」と女の子は言った。 少しだけ微笑んでいた。 壊れそうだった。 僕は言い訳をした。 人と目を合わせるのは得意じゃないんだ。 それは本当のことだった。 でも何かが足りないと思えなくもなかった。 何が足りないのだろう?
僕は彼女の目をじっと見つめた。 伏せられたまつげが見えた。 二人のどちらかの視線は透明だった。
playback いちょう、ひらり。 2000.02.24