無機質

「昨日初めて屋形船に乗りました。 屋形船の上から見る満月はとても綺麗でした」

とは、近所のモスバーガーの店頭に置かれた小さな黒板に、チョークで書かれていたコメントだ。 僕はこのコメントを見て、何か見てはいけない物を見てしまったような気がして、歩みを速めてしまった。

最近いろんな場所で、店先に置かれたこのような黒板をしばしば見かける。 「暑くなりましたね。ビールセット(500円)はいかがですか?」とか。 でも、近所のモスバーガーの黒板には、まるで営業と関係のないコメントがいつも書かれている。 「散歩にいい季節ですね。古河庭園にでもいってみようかな。」 「都電沿いはバラが綺麗だそうです」など。 おそらく店主の趣味なのだろうが、街中を歩いていてこういう私的なコメントを見かけると、僕は何か違和感を感じてしまう。
街中で落ちている手書きの手紙を見つけて、そこに書かれている文字が見えてしまったときのような。

屋形船の黒板を見て何も感じない人もたくさんいるに違いないが、僕は街にもっと無機質的なものを求めているのだろう。 とはいっても、下町感ただよう東京都北区西ヶ原に無機質なものを求めるほうが、たぶん間違っているのだが

playback  いちょう、ひらり。 2000.05.19

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