ばなな

今日は建国記念日でしたね。産経新聞によると、「今から2659年前、神武(じんむ)天皇が奈良の橿原宮で即位された日」らしいです。まあどうでもいいといえばどうでもいいことですが。

今日は一日中バイトをしていました。朝の10時から夕方の6時半までガラス拭きのバイトをして(現場は六本木の建築中のライヴ・バーでした)、その後家に帰って着替えてペペロンチーノを食べて、21時から24時まで救急病院の受付のバイトをしました。 明日の朝も8時にガラスの事務所に集合なんです。 忙しいっていうのはいいことですね。たぶん。

そんな忙しい中にも、ちょこっとだけ本を読みました。吉本バナナの「哀しい予感」です。 はい。僕は吉本バナナが村上春樹の次に好きなんですね。この本を読むのは10回目くらいでしょうか。毎年梅雨が明ける頃に読みたくなるんですけど、何故か今日は、くそ寒いのにバナナの日でした。

話の中で主人公が、おばの弾くピアノを耳にして「音というものが目に見える時があるのだと知った」という場面があって、そのあと彼女に見えた風景の描写が続くんですけど、それを読んでいる時ふと、そのピアノの音を頭の中で鳴らしている自分に気がつきました。 僕は自称ミュージシャンなので、そこにピアノがあったら音を探して再現できるのですが、残念ながら電車の中にはピアノはありませんでした。 でもその後ページを閉じて、「風景と感情と音楽」について考えてみました。

僕は文章から(そこに描写される風景から)ある音楽のイメージを抱いて、自分でも一瞬驚いたけれど、それは別に驚くほどのことではないのではないでしょうか。 それは、例えばベートーヴェンの「田園」を聴いて、そこから田園風景を想像するのは難しいかもしれないけど、僕らは田園風景を見てそこから(たとえそれを具象化する技術を持っていないとしても)音楽のイメージを感じることのほうが簡単だということです。(うまく伝えられたかな?)

つまり、ベートーヴェンの持っている「田園風景」のイメージと、僕らがそれぞれ持っている「田園風景」のイメージは違って当たり前なので、ある音楽からある風景をイメージするより、ある風景からある音楽をイメージするほうのが簡単だ、ということです。 ぶっちゃけて言えば、「田園」を聴いて、あなたが雪のしんしんと降る夜の山道をイメージしたとしてもそれは自由だし、その行為が音楽だということです。(なんとなく、そうだそうだ。という気がしてきませんか?)

僕らが普段聴く音楽は、多くに歌詞がついて、本来なら自由に抱けるはずのイメージを、限定してしまっているのではないだろうか。 僕らは想像力を失いつつあるのではないだろうか。 それが、「ジャズやクラシックは難しい」と言われる状況を作り出している原因ではないだろうか。とまあ、そんなことを、電車に揺られながら思いました。

さて、吉本バナナ。 ハリウッド物ではない映画が好きな人、村上春樹が好きな人、絵を描くことが好きな人、海も好きだけど山も好きだという人、以上四つのどれかに当てはまる人は、「吉本バナナ適正指数」が高いと思われるので(理由はいつか書きます)、読まず嫌いはせずに一度手にとってみてください。 内容と量からいって、最初は「哀しい予感」がおすすめです。読後感想文を書いた人がいたら送ってください。

それでは。 なんだかラジオみたいですけど。 素敵な明日を。

playback  いちょう、ひらり。 2000.02.11

 

新しいひとたち

日記をつけ続けたことなんて無かった。 手紙ならいっぱい書いたことがある。

静岡の掛川に行ってきました。 実は僕、ビルのガラス拭きのバイトを始めたんです。といっても、今日の現場はフロアクリーニングだったんですけど。 何故ビルのガラス拭きかというと、話が長くなるので、それは今度書きます。

昨日バイトの面接があって、今朝の9時過ぎに採用の電話がかかってきました。「採用ということなんですけど、急なんですけど、今日の夜7時からなんですけど、入れますか?現場が静岡でちょっと遠いんですけど。」という、冗談みたいな電話でした。 静岡? もちろん僕はノリで引き受けました。だって静岡ですよ。

夜7時ちょうどに事務所に着くと、若い坊主頭の男の人しかいませんでした。とりあえず挨拶をして、三つあるスチールデスクの一つに座りました。 彼は報告書のようなものを作っている様子でした。 時間が流れました。 7時半頃、30才過ぎの坊主頭の人が来て、僕は挨拶をしました。 若い坊主頭が報告書を作り上げると、二人の間で二人にしか分からない話しが続きました。 たまに僕に話しかけることもあったけど、僕にほとんど興味は無い様でした。 8時半頃もう一人来ました。彼は坊主頭ではなかったので、少しほっとしました。 彼は無口で、顔が青白くて、目が泳いでいるだけでした。

さて、出発です。 掛川まで高速を飛ばして4時間、僕はほとんど喋らずに半分眠っていました。話しかけるのが、はばかれる雰囲気が、白いライトバンの中に立ち込めていました。バスの運転手と乗客のようでした。でも一つ気がついたことがありました。

それは、狭い車内に4時間もいると、たとえ全然知らない人でも、何となく親近感がわいてくるということです。 僕は後部座席の右側に座っていたんだけど、喋らなくても常に視界に入っているだけで何となく、僕は彼らのことを少し分かったような気がしました。 それは彼らの彼らにしか分からない話を、僕が理解しようと努めたからかもしれないし、僕の生来の性格のせいかもしれません。 でも何となく僕は彼らのことを身近に感じました。そして、意外にも新しく出会った人たちを身近に感じている自分に気付き、新潟で9年間監禁されていた少女と監禁していた男のことを考えました。 冬の寒いある日「今日は天気がいいね」と、少女が男にぼそっと話しかける様子を想像しました。

現場は「ムー大陸」という名前の大きなゲームセンターでした。仕事自体は簡単で、3時間で終わりました。ずっとモップをかけていました。移動に8時間かけて、仕事は3時間。楽といえば楽な仕事でした。 高速の途中、マイナス4度という電工掲示板を見ました。車の中からもたくさんの星が見えました。

さて。明日は朝の8時に事務所に集合です。 ちょっと変わった世界で、これから知らない人にいっぱい会うのかと思うと、何となく面倒にも感じるけど、楽しみでもあります。

playback  いちょう、ひらり。 2000.02.09