連休

ゴールデンウィークなんて関係ないや。と思っていた矢先に、社長からカレンダー通り三日間の連休を言いわたされた。 どうやら仕事がないらしい。 上の会社が休めば自動的に下の会社も休みになると言うわけで、なるほど経済はピラミッドのように繋がっているのだ。 しかし急に休めと言われても、予定も何も立てていなかったので、毎日ぐうたら寝たい時に寝ている。 あれほど欲しかった休みのはずなのに、夜活動して昼間寝る毎日。 学生の時のようで少し自己嫌悪になる。 こんなことなら夜の救急病院のアルバイトも休みを取っておけばよかった。

そんなぐうたらな連休の中日、前に働いていたビアレストランのバイト仲間で、元店長を囲む飲み会があった。 元店長は関西人で今も大阪に転勤しているのだが、連休を利用して帰ってきたらしい。 この集まりは、毎年のこととなってきているようだが、辞めた連中も集まって同窓会のようだ。

この元店長には大変お世話になった思い出がある。 当然彼も僕を世話してやった思い出を持っている。 そういうわけで、僕がふらふらしてフリーターでビルのガラス拭きをやっていると聞いて、老婆心というやつであろうか、「関西に来て、うちの会社で働けぇへんか」と暖かい声をかけてもらった。 もちろん丁重にお断りしたのだが、「もっと現実的な夢を追わんかい」と言われてしまった。 そしてそこから酔いも手伝って、いつものように彼の人生論の話が展開されるのだが、僕と彼は人間の種類が違うのか、僕には彼の言っていることの7割がたが理解できない。 考え方がねじれの関係にある。 当然その間、僕は独り酒の杯を重ねて黙って聴いている。 嫌な酔い方をしてしまった。 挙句の果てに、「君、カントを読みなさい」とおっしゃった。 まぁ、マルクスじゃなくてよかった。

まぁ僕もそれなりに捨てるものは捨てて、なんちゃって人生を賭けてふらふらしているんだから、しばらくは黙って見ていて欲しい。 その割には連休中だらだらしてしまう僕がいるわけだが。 いかんいかん。本当にいかん。

その飲み会は途中で出て、その後、救急病院の受付のバイトに行った。 かなり酔いが残っていたけれど、いつものように出来た。 はずだ。 連休中とあって、救急病院は凄まじく混んでいた。 一時、40分待ちの時もあった。 ひどい喘息発作の患者の付き添いが、「もう待てないから帰るって言ってるんだけど」と言ってきたので、「ああ、そうですか」と言って保険証を返して帰ってもらった。 順番を先に回してあげればよかったと少し後悔した。 忙しいと僕は意地悪だ。

家に帰ってヘミングウェイの短編を読んだ。 はまりつつある。 ざる蕎麦を茹でて食べた。 最近ペペロンチーノではなく、蕎麦を毎日食べている。 胃が弱くなったのだ。 朝が来る。 この文章を書く。 本を読む。

playback  いちょう、ひらり。 2000.05.04

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自販機

自販機で煙草を買おうとしたら、千円札が機械に吸い込まれてしまった。 角が折れていたのがいけなかったようだ。 入れている途中で気付いていたのだが、機械がどんどん飲み込んでいくパワーに圧倒され、僕は千円札が吸い込まれていくのを見ていることしかできなかった。 ボタンを押しても煙草は出てこないし、返却レバーを回しても千円札は戻ってこない。 やさしく返却レバーをまわしても戻ってこないし、スニーカーで蹴っ飛ばしても戻ってこない。 僕の千円札は機械にとって「無かったこと」になってしまった。 機械に「知らんぷり」されたら何をしても無駄だということを僕は実感した。

その自販機の所有者であろうタバコ屋さんは、ゴールデンウィークで5日まで休みだという張り紙がシャッターに張ってあったのだが、千円札を僕は取り戻すことができるのだろうか、心配だ。 とりあえずシャッターの新聞受けに、名前と日時を書いた「千円吸い込まれました」というメモを入れておいたが、分かってくれるのだろうか。 逆に怒られたりするのだろうか、心配だ。

それにしても自販機にお金を吸い込まれるのは、今年に入って3回目だということが気になる。 いくらなんでも多すぎやしないだろうか。 「自販機と相性が悪い」と言ってもいいのじゃないだろうか。 煙草と缶コーヒーで1日2、3回自販機を使っていたら、こんなものなのだろうか。 ちなみに1回目は静岡の新幹線のホームで2回目は埼玉県のとある町のとある中華料理屋の前の自販機なのだけれど。 そして今日は駒込銀座。 何らかの繋がりがありそうだ。

時々お金が吸い込まれることは諦めるから、「当たり」つき自販機を復活させてはくれまいか。 誰に頼めばいいのか分からないけれど。

playback  いちょう、ひらり。 2000.05.01

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