ある朝

毎朝同じ道を歩いて駅へと向かう。 毎朝同じ近道を通る。 僕の近道は病院の駐車場だ。 本当は立ち入り禁止なんだろうけど、早朝はほとんど車が停まっていないので、ここで約5メートル分の近道をする。

今日の朝、ここで犬の散歩をしているおばさんとすれ違った。 といっても主役は、おばさんではない。犬のほうだ。 駐車場の出口に鎖が地上10センチほどを垂れ下がっているのだが、僕は見てしまったのだ。この鎖をまたぐ時の犬の顔を。

彼は3メートルほど前から、やがてまたぐであろう鎖をじっと見て、手前で歩調を合わせて、鎖を見ながら、「してやったり」という表情でまたいでいた。 その生真面目な表情は、なんだか人間の顔みたいだった。 間抜け面と見えなくもなかった。 僕は断然猫派なのだが、犬を飼っている人はこういう表情に愛情を感じるのだろうか。

朝、出掛けにラジオから聞こえた歌が、一日中頭から離れないように、今日はこの犬のアホな表情が頭から離れなかった。

playback  いちょう、ひらり。 2000.03.14

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