手袋をつけるのは嫌いだ。マフラーも嫌いだ。 寒風に吹かれる剥き出しの首を見て、「寒そうだねぇ。マフラーしないの?」と訊かれたときには、「マフラーや手袋なんて、女・子供のするもんだ」と答えることにしている。
しかしながら、やっぱりというか、「女、子供っていう言い方は無いでしょ」と言われてしまった。 もっともである。20年前ならいざ知らず。 でも、いくら寒くっても手袋をしないのには、他の理由がある。しかも長い長い話になってくる。 いちいち説明していたら、きりが無いし、第一相手も聞きたく無くなってくるような話である。
僕が手袋をしないのは、ヘロイン中毒患者になりたくないからである。 これが結論だ。 ヘロイン患者になったら、お先真っ暗である。 打ちたくても金が無い。だからと言って我慢する訳にもいかないから、人を騙すか、小さな悪事をいっぱい働くか、金の有り余った女性の愛の奴隷になるしかない。 銀行強盗はしないだろう。そんな器ではない。 出来れば人を騙すことは避けたい。
そうではなくって、何故、僕が手袋をするとヘロイン患者になってしまうかという話だ。 僕はタートルネックのセーターやトレーナーを一着も持っていない。 首が太いからだ。 体に合った服を買っても、首が太いので締め付けられて苦しくなってくる。 おまけに首がかゆくなってくる。 何故か頭も痛くなってくる。 閉所恐怖症の人が掃除道具入れのロッカーに閉じ込められたときに感じるような圧迫感と恐怖感が僕を襲う。 以上の理由で僕はタートルネックが嫌いだ。 あの首にまとわりつく異物感は、献血の時、僕の腕に刺さっている太い針のようだ。 献血の針を腕に刺したまま街中を歩きまわりたくはないし、そんな人と友達になりたくはない。 針を腕に刺すのに慣れてしまったら、僕を待っているのはヘロインの誘惑である。
そう言う理由で、僕はタートルネックが嫌いだし、マフラーも嫌いだし、何となく手袋も嫌いだ。 「耳あて」は好きかもしれない。
この話を、「女子供って言い方はないんじゃない」と言った人に話したら、「とてもあなたを理解できない」という顔をされ、あきれられてしまった。 だから言いたくなかったんだ。 とにかく僕は手袋やマフラーと仲良くなれそうにもない。
playback いちょう、ひらり。 2000.02.17