マキロンと知らないこと

雨が止んだ夕方、衆議院選の投票をした帰り道。 道端に小さな女の子が座っていた。 自宅の前で遊んでいたら、転んで足を擦りむいたのだろう。 傍らに彼女のお母さんが、「マキロン」を片手に座っていた。

母親は、「しみる?」と訊きながら、マキロンをつけていた。 女の子は、不思議そうな目をして、マキロンがつけられる患部を凝視して、「なんか痛い」と言った。

突然、側に座っていたお兄ちゃんらしき男の子が、「しみる〜!」と叫んで立ち上がって、「見ていられない」と言う感じで、くるりと周った。 もう一度「しみる〜!」と言った。 それを見て女の子も、「しみる〜!」と大声で言った。

僕はその光景を見ながら、横を通りすぎた。

あの女の子は、もしかしたら、「しみる」という言葉の意味を、まだ知らなかったのかもしれない。 彼女の周りには、まだ知らないことがいっぱいあって、それを彼女は一つずつ覚えて行くのだろう。 そういうのって、なんだか綺麗だな。と思った。

playback  いちょう、ひらり。 2000.06.25

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