風邪気味で、朝からお腹の調子が悪かった。 僕は仕事が終わるとすぐに、地下鉄のトイレに駆け込んだ。 ドアを開けると、水が流れる音がしていた。 でも実際に水が流れているわけではなくて、それは用を足すときの音をかき消すための「音姫」という名前の装置だった。 こんなもの男性トイレにあっても意味は無いんじゃないかと少し思った。
赤外線か何かで、人が座っていると作動するらしく、しばらくその水の音は流れっぱなしだった。 なんだか急かされているような気がした。 もしかしたらこの装置を備えつけた人は、用を足すのを早く済まさせることを目的としたのかもしれない。 だとしたらその目論見はまんまと成功したことになる。 僕はその音が気になってしょうがなかったので、急いで中途半端に済ませてしまったのだ。
さて立ち上がって水を流そうとしたのだが、水を流すためのレバーなりボタンなりが見当たらない。 よく見るとプラスチックのプレートがあった。 「このトイレは人が場所を離れると自動的に水が流れます」
僕は自嘲的な笑みを浮かべた。 人であろうと機械であろうと、人に下の世話をしてもらうなんて、なんだか恥ずかしかった。 もしこの装置の調子が悪くなったら、どうするつもりなのだろう。 まあ、「使用中止」の張り紙が張られるだけなんだろうけど、何か間違っているような気がした。
これも永田町の陰謀の一つなのだろうか。 ところで世の中には、居酒屋で同席している女の子がトイレに行くと、「おしぼり」を持ってトイレの横で待っている男がいるというのは本当なのだろうか。
playback いちょう、ひらり。 2000.06.12